最高裁判所第一小法廷 昭和43年(オ)88号 判決 1968年6月20日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人青山友親の上告理由について。
原審が適法に認定した原判決挙示の事実関係、とくに上告人は訴外株式会社松柏堂印刷所(以下単に松柏堂という。)に融資をするようになつて以来十余年間十数回にわたり、右松柏堂から、甲第一号証と同形式同内容の被上告人またはその子会社である訴外日通産業株式会社に対する印刷代金の取立権限を授与する旨の委任状の交付を受けていながら、その文言にかかわらず、自らは右印刷代金の取立について全く関与せずその取立および上告人に対する融資の弁済は専ら右松柏堂自身が行つて来たものであり、そして、その間上告人は被上告人らの右松柏堂に対する右印刷代金の支払について何らの注意も関心も示さなかつたものである等の事実関係のもとにおいて、被上告人が右取引関係の継続として昭和三七年七月一四日甲第一号証の委任状にその委任の内容を承認する旨の奥書をしたのは、その文言にかかわらず、上告人自らが被上告人らに対して右代金の支払を請求した場合には、被上告人らが上告人にその支払をすることを認めたものではあるけれども、上告人自らが右代金の支払の請求をすることなく、右松柏堂がその請求をした場合には、被上告人らにおいてその支払を拒絶し、右代金を上告人のために留保しておかなければならないことまでを認めた趣旨ではなかつたとした原審の認定判断は、これを正当として是認することができる。原判決には所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。(略)
(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)